無線LANの導入設計において、5GHz帯のチャンネル帯域による違いが
DFS以外にもある、ということをご存知でしょうか?
「とりあえず自動で設定されたチャンネルを使えばいい」と思われがちですが実は、チャンネル帯域によって「最大の電波強度」が異なる という違いもあります。
今回は、意外と知られていない電波出力の仕様と、複数の無線アクセスポイント(以下AP)を導入する際の運用や設計上の問題点についてまとめてみました。
無線APの電波強度の違い
私が電波強度の違いに気付いたのは2つの事象からでした。
事象1:電波の測定を行ったところ、同じAP機種なのに測定された電波強度が違う
複数のAPを利用するオフィス等で数メートルごとに電波の強さを測定することがあるのですが、この測定結果でAPのすぐ近くで計測した電波強度がAPによって明らかに異なることがありました。
事象2:直近のAPがあるのに、遠方のAPへ接続されてしまう
複数のAPが存在する場合、無線LANを一度切断して再接続すると、基本的に最も近いAPへ接続されます。
しかし今回のオフィスでは、すぐ近くにAPが設置されているのに別のAPの電波強度が強いAPに接続されてしまうことがありました。
これらの事象より、チャンネルによって電波強度が違うということがわかりました。
5GHz帯の各チャンネル(W52 / W53 / W56)の違い
まずは日本国内での無線LANのチャンネルの構成 を確認します。
| 帯域名称 | チャンネル番号 | 周波数帯 | DFS | 屋外利用 | 最大EIRP(注1) |
| W52 | 36, 40, 44, 48 | 5.2GHz帯 | 不要 | 不可(注2) | 200mW |
| W53 | 52, 56, 60, 64 | 5.3GHz帯 | 必要 | 不可 | 200mW |
| W56 | 100 ~ 144 | 5.6GHz帯 | 必要 | 可 | 1W (子機は200mW) |
上記の表からチャンネルごとに DFS、屋外利用の可否 以外に 最大EIRP の違いがあることがわかります。
最大EIRPは、W52/W53では200mW、W56では1W といったように異なります。
この違いは機種によりますが、電波強度に影響することがあります。
実際に同一機種のAPの設定を「同じ電波出力設定、チャンネルのみ異なる」設定にして測定したところ
「W52・チャンネル36」のAPが「W56・チャンネル100」に設定したAPより弱く測定されてチャンネルを変えて対応するような問題に遭遇したこともあります。
広範囲を少数のAPでカバーしたい場合、W56(チャンネル100-144)を優先的に利用する構成が良い事がわかりました。
W56チャンネルの問題:DFSによる「強制チャンネル移動」
「じゃあ全部W56で設計すればいいじゃないか」となりますが、ここで問題がでてきます。
それが DFS (Dynamic Frequency Selection)です。
W53およびW56の帯域は、気象レーダーや船舶レーダーなどの重要無線と共有されています。
そのため、APがレーダー波を検知した場合は「即座にそのチャンネルの使用を停止し、移動しなければならない」という、日本の電波法に定められたルールがあります。
そのため日本で販売されるAPは、レーダー波を検知するとチャンネルを移動してしまいます。
DFSによるチャンネル移動で起こった問題
- 出力の低下:W56(高出力)で運用していたAPが、レーダー検知によりW52(低出力)やW53(低出力)へ移動すると、電波の届く範囲が狭まり、電波が弱い部屋などができてしまった。
- チャンネル競合:複数のAPがDFSで移動した結果、移動先が隣のAPと同じW52のチャンネルに固まってしまい、電波干渉が発生して通信が不安定になった。
- ローミング移動先の偏り:複数のAP間での端末のローミングがW56(高出力)で運用しているAPに偏ってしまい、特定のAPに接続が偏って通信が不安定になる問題が発生した。
- 予測不能なタイミング:気象レーダーを検知することは多々あり、また発生頻度やタイミングは不定期のため、運用上の不安定要素となった。
どう運用するのがベターだったのか?
ここの「出力差」と「DFS」のジレンマをどう解決すべきだったのか考えました。
対策1:夜間にチャンネルを切り戻す機能を使う
機種によっては、DFSで移動してしまったチャンネルを、アクセスの少ない夜間などに元のW56設定へ自動で戻す機能(チャンネルフォールバック)があるものがあります。
これを活用することで、翌朝には元の設計どおりの出力・配置で運用を開始できるため、DFSによるチャンネル移動の影響を当日のみに限定する事ができます。
対策2:チャンネル「自動設定」での運用で妥協する
チャンネル固定運用でDFSが多発すると、一部のチャンネルだけが過密になることもあります。
しかし、ベストを求めてDFSによる変更に逐次対応していくと運用コストが掛かりすぎてしまいます。
そこで、電波強度の違いや競合は若干妥協して「自動チャンネル調整」に任せてしまう運用の方が、運用コストと安定度のバランスから良い結果となることもあります。
対策3:6GHz帯を利用する
最近のAPでは、6GHz帯が使用可能の機種があります。
6GHz帯であれば、DFSやチャンネルによる電波強度の違いがありませんので、チャンネル固定でもチャンネル移動による問題を考える必要がありません。
また5GHz帯より利用が少ないため、外部のAPとの電波干渉が少なく見込める点も安定性や高速性を担保しやすくなります。
なお、対応機器が少ないことと、6GHz帯のチャンネルの最大EIRPは全て200mWとなるためW56の1Wより弱くなる点はデメリットとなります。
まとめ
- 広範囲をカバーしたいなら、出力が大きいW56が有利
- ただしW56には、DFSによる予期せぬチャンネル移動と出力低下のリスクがある
- W52は出力は弱いが、レーダー干渉がなく安定している
無線LANの安定性や高速性を突き詰めるならW56チャンネルの活用が有用ですが、その裏にある「DFSによる変動」まで考慮した設計や運用が求められます。
なぜか一部の場所だけ電波が弱い・・・というトラブルに遭遇した際は、APがDFSで
・W52やW53のチャンネルに逃げていないか?
・別のAPとチャンネルが競合していないか?
をチェックしてみると、解決につながるかも知れません。
また、6GHz帯であればDFSや電波強度の違いがありませんので、5GHz帯と6GHz帯の併用もおすすめです。
APと接続端末(PCやスマホなど)の切り替えが必要ですが、試してみてはいかがでしょうか?
脚注
